ワンゲル君が行く!!
第一章「4月の巻」
新天地の高校は目新しいことばかりでいつもソワソワしていた。 まあ、ごくふつうの県立高校なので特別なことは何もないのだが、電車通学であったり給食は無くなったり、とにかく知らない連中が多かったりと、初めてづくしの事ばかりで、地に足がついていなかった。
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入学してまもなく、周りにも馴染めていない頃にクラブのオリエンテーションがあった。 つまり、新入生を集めてのクラブ紹介だ。 高校くらいになると大体何をするか決めている連中が多く、半分くらいのヤツは「早く終われー!」ってな顔をしていた。 一方壇上では、入れ替わり立ち替わり各クラブの人たちが出てきては何やら説明をしている。
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メジャーな野球部、バレー部、サッカー部などは誰が見ても一発で分かるので簡単だが、得体の知れない文化系のクラブは自分たちが何者なのか伝えるのに大変そうだ。 そうこうしているうちに、とりわけ得体の知れない5人の男が出てきた。
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その中の4人は、高校のクラブユニホームとは思えない学生なら誰もが眉をしかめる服を着ており(壁紙のワンゲル君参照)、背中には今にもカビの生えそうなリュックサックを背負っていて、一人だけ学校の制服を着ていた。その制服男はマイクを持つとおもむろに喋り始めた。
「ヤマニ ノボリマセンカ?」
場内は一瞬、あまりに唐突な、そして棒読みな言葉に時が止まったと錯覚するほど静かになった。 だが、すぐに元の騒々しさを取り戻した。 制服男と4人の男達は、かまうことなく喋り続けてサッサと帰っていった。
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僕自身、彼らが何を喋っていたのか全く覚えていないが、最初の「山に登りませんか?」の一言と怪しげな雰囲気だけが妙にひっかかったままその日は終わった・・・。
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学校へは中学時代の同級生、通称「じっちゃん」と一緒に通っていた。 通称といってもこのあだ名で呼ぶのは僕ぐらいだったけど・・・。 ヤツもクラブには入りたいのだけど「どれもいまいちだぁ・・・」と思っていたらしい。 何せこの男、幼少の頃よりボーイスカウトなるところで必要以上に心身を鍛えてきており、「サバイバルの鬼」の称号を与えてやってもいいくらいの高等な技術と確かなキャリアを持っていたため、たぶんその辺の嗅覚には鋭いものを持っていたのだろう。 気が付けば二人で、制服男のいる名前すら思い出せないクラブのこれまた怪しげなクラブ部室の前に立っていた。
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クラブ部室はなぜか校舎の4階にあったのだが、当然時間は放課後な訳で、廊下には生徒の姿はほとんどなく、窓から射す薄暗い夕焼けの光がより一層の怪しさを演出していた。 少し重い鉄製の引き戸を開けると僕たちが思っていたようなクラブ部室は無く、普段使っている教室と同等の広さの空間があった。 それもそのはず、そのクラブ顧問の先生が使用している地学準備室をそのまま占領しているだけだったのだから・・・。
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「さすが、得体の知れないクラブだ!!」と変に感心しながら中に入ってみると、さらに予想もしない光景が目に飛び込んできた。 先日、壇上で何やら喋っていたヤツらが事もあろうか、麻雀などをしており、「んっ、何?」ってな具合で平然とこっちを見ていた。 僕たちはすぐさま目をそらして、帰ろうとするとやっと事態に気が付いたのか、急に必死になって初めて来たであろうと思われる僕たち1年生を逃すものかと、目にも止まらぬ早さで雀卓を片づけて何事もなかったようにクラブ説明を始めたりした・・・。
この時判明したことは、
1.このクラブは山に登るクラブではあるが、かなりソフトで、マイルドな味付けになっている事
2.部員は3年生が1人、2年生が4人、1年生は当然の如くゼロであると言う事。
3.ソフトでマイルドにもかかわらず装備を揃えるのに悲哀なる中年サラリーマンのおこずかい1ケ月分があっという間に吹っ飛んでいくと言う事、
4.不可解なことに、麻雀が高校生の遊びとして出来ること。
5.そして、物件の売り出し文句ではないが、顧問の先生が使用していることもあって?、この部屋は電気、ガス、水道、暖房完備。 おまけに校舎の最上階にあるので展望、日当たり良好と言う事だ。
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話を聞くだけのつもりだったが、事実上、入部した形になってしまった。 まんまとヤツ等の思うツボ状態だったが、「案外あの気怠さと気合いの無さがピッタリだったのかな?」と思うわけで、「じっちゃん」も文句を言いながらも少し嬉しそうだったりして、翌日からは何も言われなくてもクラブ部室に行ってはくだらない話に華を咲かせていた。
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ちなみに、当然と言えば当然だが、この後このクラブに1人も新入生は来ることもなく、僕たち2人が加わっただけの「かわいらしい?」新生ワンダーフォーゲル部がスタートすることとなった・・・。
5月につづく・・・。